本みりんについて

平成25年12月に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、和食に対する注目度が増している。長寿国日本の食文化ということもあって、「和食=健康」とのイメージから海外で和食ブームが起っている。ところで和食のユネスコ無形文化遺産への登録は、実は和食が存亡の危機に直面しているということの現れで、今こそ日本人として和食の保護と後世への継承が必要であると考えている。

和食を支える伝統的調味料に本みりんがあるが、同じ伝統的調味料である味噌や醤油に比べて認知度が低い。一般的には、本みりんの歴史や製造方法、本みりんを使った調理法とその調理効果などについて、余り知られていない。本みりんを知り、上手に適量を使うことで、料理の旨味を高め、見た目や香りもレベルアップが図れる。数十年前までは高価な調味料であったが、現在では手頃な価格で販売されているので、この機会に飲食店でも家庭でも気軽に使って貰いたい。

本みりんは料理専用の甘い酒

和食に清酒、洋食にワイン、中華料理に老酒という様に酒は料理の調味に使われる事が多いが、本みりんは料理だけに使われる飲まない酒なのである。酒は酒税法で規定され、税金を適切に徴収するために製造も販売も免許制になっている。従って、本みりんは免許を持つ製造者によって醸造され、免許を持つ酒販店などが販売している。著者が子供の頃には本みりんは酒屋で売られていたが、現在では販売免許の緩和が行われた為に、スーパーマーケットでも購入できる様になった。

本みりんは14%程度のアルコールを含む甘い酒で、「酒税法」の混成酒類に分類されている酒類である。酒税法第3条第11号を要約すると、本みりんは「米・米こうじに焼酎又はアルコール、その他政令で定める物品(ブドウ糖、水あめなど)を加えてこしたもので、アルコール分が15度未満、エキス分が40度以上の酒類」と定義されている。すなわち本みりんは、蒸したもち米と米麹を焼酎またはアルコールに加えて、米デンプンを米麹の酵素で糖化させて造った甘い酒である。本みりんの甘さは、米麹を糖化した甘酒の甘さに似ている。

本みりんの歴史

本みりんが文献に初めて登場したのは、文禄2年(1593年、安土桃山時代)の「駒井日記」で蜜淋酒(みりんしゅ)の記載があり、本みりんは上流階級で甘い酒として飲まれていたようである。江戸時代中期以降になると本みりんは、一般庶民にも甘い飲み物として定着してくる。江戸時代後期になると鰻のたれやそばつゆに使われだし、本みりんの調味料としての使用が定着した。

明治時代から戦前にかけては一部の一般家庭で本みりんの使用が始まるが、まだ贅沢品であり日本料理店で隠し味的に使用されることが多かった。戦時中の昭和18年(1943年)には、本みりんは贅沢品ということで政府が生産制限を行った。この生産制限は昭和26年(1951年)まで続いたが、昭和30年代には酒税の大幅減税により徐々に一般家庭に普及していき、そして今日、本みりんはわが国を代表的する調味料になった。

最初は本みりんが甘い酒として飲まれていたことから、最近まで飲料用のみりんである本直し(ほんなおし)があった。みりんのほとんどが調理用の本みりんであることから1989年の酒税法改正では本みりんと本直しの品目が廃止された。今でも正月だけは、本みりんに屠蘇散(とそさん)をいれた屠蘇を飲むことが一般に正月行事として行われている。
本みりんの出荷数量を図1に示す。本みりんの出荷量は1960年に800kℓであったが2000年には105,000kℓと40年で10倍以上に増加した。1989年の酒税大幅減税、1998年の販売免許緩和が本みりんの家庭用需要増加のきっかけになった。

本みりんの製造方法

本みりんの製造工程を図2に示した。蒸もち米と米麹(うるち米)を焼酎またはアルコールに仕込み、20~30℃で40~60日間糖化・熟成する。圧搾後、火入れをして滓下げ(おりさげ)、ろ過を行い、数か月間の貯蔵後、もう一度火入れをして製品化する。
本みりんの主原料であるもち米は、うるち米に比べてデンプンが老化しにくく米麹のアミラーゼによって糖化され易い。政令で本みりんの原料として、とうもろこし、ぶどう糖、水あめ、タンパク質分解物、有機酸、アミノ酸塩、清酒粕又はみりん粕などが認められている。もち米の価格が高いことから、価格を抑えるために水あめが使われることが多い。上記の副原料を使用しないで造られた本みりんを、純米みりんと呼ぶ。

焼酎は、蒸留方法の違いにより連続式蒸留焼酎と単式蒸留焼酎に分けられるが、本みりんの製造には何れの焼酎も使われる。前者は夾雑物(きょうざつぶつ)を取り除いたアルコール純度の高い焼酎で、後者はアルコール以外の微量成分を含み独特の風味をもつことから、使用する焼酎によって本みりんの風味も異なったものとなる。かつて連続式蒸留焼酎を使用した本みりんを新式みりん、単式蒸留焼酎を使用した本みりんを旧式みりんと区別されることもあった。

表1に本みりんの仕込み配合例を示すが、一般的に麹歩合は10~30%、焼酎歩合は60~80%である。みりん醪(もろみ)では、もち米が米麹のデンプン分解酵素やタンパク質分解酵素により分解されて、糖類やアミノ酸などが生成し、さらに米麹由来の有機酸も生成される。蒸もち米や米麹の水分による液量の増加で、アルコールは仕込み時の40%から15%に希釈される。熟成過程では、これら生成された各種物質間で化学的、物理的反応がおきて、本みりん特有の風味が形成される。
みりん醪を圧搾した際に出るみりん粕は、「こぼれ梅」と呼ばれ、その甘味から菓子の原料や奈良漬けの漬け床に利用されている。

本みりんの成分

市販の本みりんを糖類使用みりん、純米みりん、長期熟成みりんの3タイプに分けることもあるが、消費量の90%を比較的価格が安い糖類使用みりんが占める。長期熟成みりんは、純米みりんを1年から長いものでは10年間貯蔵させたみりんで、貯蔵中に着色が進み独特の風味を持っている。

本みりんの主要成分は糖分で80~90%がグルコースであり、その他に多くのオリゴ糖を含んでいる。糖分に次いで含有量の多い成分はアルコールで約14%を占め、ほとんどがエチルアルコールである。
本みりんの窒素成分は、もち米および米麹のタンパク質が米麹のプロテアーゼにより分解された低分子ペプチドとアミノ酸で、総窒素で0.03~0.1%、アミノ酸で15~25㎎%と、糖分やアルコールに比べて含有量は少ない。
本みりんの有機酸は、主に米麹の麹菌が生成するクエン酸などや、米麹中で増殖した乳酸菌が生成する乳酸などが含まれている。有機酸は他の成分に比べると微量である。

本みりんの調理効果

本みりんには、6種類の調理効果が知られている。

① 上品な甘みの付与
本みりんの糖分はブドウ糖が主成分であるが、7種類以上のオリゴ糖などを含むことから、砂糖とは異なる上品な甘みとなる。グルコースは砂糖の甘味度の1/3ではあるが甘味の質が異なる。
② テリ・ツヤの付与
本みりんにグルコースが多く含まれることとオリゴ糖の作用により、テリ・ツヤが良くなる。
③ 煮崩れ防止効果
本みりんの糖分とアルコールの作用により、食材の煮崩れを防止する。
④ 深いコク・旨味の付与
本みりんのアミノ酸やペプチドなどが、糖類や他の成分と複雑に絡み合って生まれる。
⑤味の浸透効果
アルコールは食材への浸透が速く、糖分、アミノ酸、食塩などの食材への浸透も速くなる。
⑥消臭効果
アルコールが蒸発する時に臭みをとる物理的消臭と、α-ジカルボニル化合物とアミン類による化学的消臭の両作用による。水産練り製品には、魚臭を取るために本みりんが用いられる。

みりん類似調味料

本みりんと同様に甘みを付与する調味料としては、みりん風調味料と発酵調味料(みりんタイプ)がある。
みりん風調味料は、糖を主成分(約70%)としアルコール含有量を1%以下とした酒税がかからない調味料である。みりん風調味料には、本みりんの調理効果は無い。

発酵調味料は発酵によるアルコール(約8%)を含有しているにも関わらず、食塩を加えて不可飲処置がされているので酒税が掛からない醸造調味料である。発酵調味料は、主に業務用に用いられてるが、スーパーマーケットでは料理酒として売られている。発酵調味料には食塩が含まれており、使用に際しては塩辛味も増すので注意が必要である。

図3に本みりんおよびみりん類似調味料の生産量の推移を示した。本みりんの生産量は、2005年の111,000kℓを最高に2018年でも100,000kℓを維持している。みりん風調味料の生産量は、2000年の67,000kℓを最高に減少し2018年は32,000kℓであった。一方、発酵調味料の生産量は2010年に139,000kℓに達し2018年でも128,000kℓであった。

本みりんと和食

本みりんを単独で調理に用いないことから、本みりんは調味料の主役にはなれないが無くてはならない名脇役だと思っている。本みりんは、昔ながらの製法を守りながらみりん蔵が、数か月もの醸造期間を掛けて製造している。日本の伝統調味料である本みりんについて正しい知識を得て、美味しい和食を食べて欲しいと願っている。

著者紹介

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東京農業大学名誉教授・一般財団法人日本醤油技術センター 理事兼顧問
みりん研究会 副代表幹事

専門分野:醸造学、応用微生物学、食品製造学

1953年京都府生まれ。東京農業大学農学部醸造学科卒、同大学院農学研究科博士前期課程農芸化学専攻修了。同大助手、講師、助教授、教授を経て2019年より名誉教授。博士(農芸化学)。1997年度日本醸造協会技術賞、2009年および2019年日本醤油技術賞受賞、2010年醤油功労賞受賞。醤油の研究は40年余にわたり「醤油博士」として知られ、本みりんや醤油の講演を数多く行っている。

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