『うなぎの栄養について』 管理栄養士 森 由香子

『鰻の栄養について』管理栄養士 森 由香子

万葉の時代から鰻は栄養食

夏バテ、スタミナ増強、疲労回復に役立つ滋養強壮食品の決定版といえば、鰻を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。鰻は、日本では古代から食されており、平安時代朝廷に献上された『医心房』という医書にも鰻の効用が記載されています。
大伴家持(おおとものやかもち)が『万葉集』の中で歌った「石麻呂(いそまろ)に我れ物申す夏やせによしというものぞ武奈伎(ぶなき=うなぎ)取りめせ」というのがあり、これは、吉田連石麻呂(よしだむらじいそまろ)が夏バテしている大伴家持に鰻を食べると良いと進言したものと解されています。

鰻が一般的に食べられるようになったのは江戸時代からです。平賀源内が『土用の丑の日』に鰻を食べるように推奨した話は有名です。ある鰻屋の商売を繁盛させるために平賀源内が「鰻は薬になる」といって宣伝を手伝ったことから鰻の消費が高まったとされています。
しかし、きっかけはどうあれこの江戸時代の風習は、現代になって理にかなったものと証明されました。夏は、暑さからくる疲れから飲み込みやすい、ひやむぎやそうめんなど、麺のみなどに偏り、栄養が足りない淡泊な食事になりがちです。そのため栄養が豊かな鰻を食べれば栄養補給ができ、その結果体力がついて元気をよみがえらせ夏バテ解消ができることが多くの人に知られていることからもわかります。

鰻は必須アミノ酸とビタミンがたっぷり

鰻のヌルヌルとしたぬめり成分は、ムコプロテインという糖たんぱく質の一種です。中国では古くから「精がつきたらぬめりのあるものを食べよ。」といわれているようです。ムコプロテインは、胃腸の粘膜を保護し、消化吸収を助ける働きがあります。夏バテに限らず、内臓の機能が幾分衰えているときにでも栄養分がしっかり吸収される効果が期待できますので体力、食欲が減退気味の時に最適な食べ物となります。

鰻は、たんぱく質(必須アミノ酸)、ビタミンA、ビタミンB₁がたっぷり含有されています。たんぱく質は、私たちの体の骨格や筋肉、皮膚、毛髪、内蔵などの組織、体内の代謝を担ったり調節したりする酵素やホルモン、神経伝達物質の材料になっています。たとえば、血液成分のヘモグロビン、遺伝子、免疫物質などです。
また、糖質や脂質と同様に、エネルギー源にもなります。不足すると体力、思考力の低下をはじめ体全体の機能低下につながりかねません。
鰻に含まれるビタミンAは、野菜に含まれるカロテンと異なり吸収が極めて良いです。内蔵や皮膚、目などの粘膜強化、動脈硬化症や老化や病気の原因となる過酸化脂質の分解を助け、免疫力を高め、細菌やウイルスに対抗するといった働きがあります。
余談になりますが、2020年になって世界的に新型コロナウイルスが猛威をふるっています。ここでいう免疫力の免疫と、新型コロナウイルスに対する免疫は、同じ免疫ではありません。残念ですが、栄養補給など自助努力で免疫力アップしても新型コロナウイルスに絶対にかからない免疫を得ることはできません。ここでいう免疫とは自然免疫のことをさします。自然免疫とは、体の中で24時間行われている弱い敵を見つけると自分たちの力で排除する働きをいいます。

鰻のビタミンB₁は疲労回復効果が

次にビタミンB₁ですが、疲労回復効果や中枢神経や末梢神経の働きを正常に保つために重要な働きがあります。糖質の代謝(水と二酸化炭素に分解する過程でエネルギーを作る)に深く関わっています。ビタミンB₁が不足すると糖質の代謝に異常をきたし、エネルギー産生がうまくいかなくなります。水溶性なので体に蓄積されないので毎日摂ることが大切です。ちなみに、ビタミンB₁は鰻のほかに干しそば(乾)、玄米ご飯、豚肉(ヒレ肉)、ボンレスハム、真鯛、たらこ、ブリ、ヒラタケなどに多く含まれています。
ビタミンB₁は、にんにく、たまねぎ、ネギ、ニラなどに含まれる含硫化合物と一緒になると吸収がよくなりビタミンB₁の働きが持続します。ですので、うな丼やうな重をいただくときは、含硫化合物のふくまれた野菜を組み合わせるとよいでしょう。

老化予防や皮膚の健康維持のビタミンも含有

ひつまぶしとして食べるのもお勧めです。ひつまぶしは、農林水産省が選定した「農村漁村の郷土料理百選」にも選ばれている名古屋の名物料理です。ご飯をおひつに敷き詰めて、その上に、刻んだ鰻の蒲焼きをのせ、ご飯とかき混ぜていただきます。特徴は、1杯目(ごはんと鰻をまぶす)、2杯目(ネギ、海苔など薬味をかける)、3杯目(煎茶、だし汁を使ってお茶漬け)と食べ方をどんどん変化させていくのです。

そのほか、老化予防のビタミンE、皮膚の健康維持に役立つビタミンB₂、骨粗しょう症予防になるカルシウムやビタミンDも含まれています。特にビタミンDは、日照時間が短くなる冬は不足しがちになります。鰻は夏の食べ物というイメージが強いかもしれませんが、寒い冬にも是非とも召し上がっていただきたいと思います。

ひつまぶしの3杯目は煎茶やだし汁を使ってお茶漬けにして頂く

山椒を一緒に食べる栄養学的な意味

また、鰻は動脈硬化予防の多価不飽和脂肪酸(n-3系脂肪酸)も豊富です。DHA(ドコサヘキサエン酸)は脳の働きを高め、EPA(エイコサペンタエン酸)は悪玉コレステロールの上昇抑制に役立ちます。ただ、こちらの多価不飽和脂肪酸は酸化しやすい特徴があります。酸化してしまったEPA、DHAでは効果が半減してしまいがちです。
そこで、山椒の出番です。蒲焼きに欠かせない山椒が、味を一層ひきたててくれるばかりでなくEPA、DHAといった油の酸化を抑えてくれます。あの山椒の独特の香り成分は、主にシトロネラールで抗ウイルス作用や食欲増進、胃もたれ、消化不良をたすける効果が高いとされています。

鰻と一緒に摂りたい栄養素とは

ところで、栄養が豊かな鰻にも足りない栄養素があります。それは、ビタミンCと食物繊維です。それらの成分を含んでいる食材は、野菜やフルーツです。ウナギと一緒に組み合わせていただけば栄養バランスが整います。ビタミンCは、抗酸化ビタミンとも呼ばれており酸化を防ぐ働きがあります。食物繊維は、腸内環境を整える働きがあり免疫力の増強にも関わっています。

蒲焼きのエネルギー量は1串(80g)あたり約234Kcalです。大体、ごはん(150g)1杯分にあたります。うな丼にすると約556Kcalになります。このエネルギー量が多いか少ないかは、個人個人の適正エネルギー量によって異なります。たんぱく質量は、23.3g含まれています。
鰻は、美味しいのはもちろん、栄養価も高いので滋養強壮の一助に日常的に食卓に摂り入れ是非、健康維持にお役だてください。

うなぎ蒲焼100g たい塩焼き100g ローストビーフ100g
エネルギー 293kcal 210kcal 196Kcal
タンパク質 23.0g 22.7g 21.7g
ビタミンA 1500μg 17μg Tr
ビタミンD 19μg 5.6μg 0.1μg
ビタミンE 4.9mg 4.6mg 0.3mg
ビタミンB1 0.75mg 0.14mg 0.08mg
ビタミンB2 0.74mg 0.09mg 0.25mg
n-3脂肪酸(EPA.DHAなど) 2.87g 2.24g 0.06g

著者紹介

森 由香子(Mori Yukako )

管理栄養士・日本抗加齢医学会指導士
東京農業大学農学部栄養学科卒業、大妻女子大学大学院(人間文化研究科 人間生活科学専攻)修士課程修了
クリニックにて栄養指導、食事記録の栄養分析、食事管理業務に従事。フランス料理の三國清三シェフととともに病院食や院内レストランのメニュー開発、料理本制作の経験をもつ。管理栄養士・日本抗加齢医学会指導士の立場から食事からのアンチエイジングを提唱している。おもな著書に『おやつを食べてやせ体質に! 間食ダイエット』(文藝春秋)、『毒になる食べ方 薬になる食べ方』(青春出版社)などがある。

管理栄養士森由香子先生

関連記事

  1. 醤油と大豆

    醤油について

  2. 「うなぎ」の長~い話 第3回「鰻の蒲焼」はいつから? 戸田 育男

  3. 『外食チェーンのうな丼チェック2021』 うなぎのプロが選んだ今年のお勧め「うな丼」は?